前回の番外編では、コンプライアンスリスクについて触れました。
ことの他、多くの反響をいただいており、クレディセイフとしても積極的にお手伝いすべき分野として改めて兜の緒を締めたところです。
今回は訴訟履歴について触れていきたいと思います。
私自身、弁護士ではありませんので、法的な解釈については誤りがあるかも知れません。
あくまで、信用調査報告書の情報にもとづき、自社の判断を下していくための参考として述べます。
前回の番外編では、コンプライアンスリスクについて触れました。
ことの他、多くの反響をいただいており、クレディセイフとしても積極的にお手伝いすべき分野として改めて兜の緒を締めたところです。
今回は訴訟履歴について触れていきたいと思います。
私自身、弁護士ではありませんので、法的な解釈については誤りがあるかも知れません。
あくまで、信用調査報告書の情報にもとづき、自社の判断を下していくための参考として述べます。
日本の法制度においては、社会的な注目を集めるようなものでない限り、訴訟や判決の詳細を検索して確認することは、中々難しい状況です。
職務柄、帝国データバンクや東京商工リサーチを含め、多くの信用調査会社の日本企業情報レポートを読む機会がありますが、どの調査会社のレポートも裁判記録を含んだものはないと理解しており、その入手や確認の難しさが影響しているものと思われます。
対して、代表者の犯罪歴や倒産歴などはよく網羅されているので、なぜ同じことが法人に適応できないのか、行政制度の不備を感じるところです。
他方、中国の法制度は電算化がよく進んでおり、訴訟関連情報についてもその多くがインターネット上で公開されています。
最高裁判所を筆頭に、高級地裁、中級地裁、地方裁判所に分類される所轄裁判所は、全土で約2,700か所あり、それらが発する記録は、中国裁判文本網(https://wenshu.court.gov.cn/)にて大方確認する事ができます(一部メディアでは、不都合な裁判記録が削除されているという報道もありますが、このブログでは中立を心掛けます)。
登記情報のブログでも触れましたが、こうした電算化が進むと、そこに商機をみいだすベンチャー企業が多数育ち、中国ではそれらの情報をAPIで接続して数百円で購入できるようなポータルが乱立していたり、対象企業を登録しておけば、それに関連する訴訟データが発生した場合にアラートしてくれたりと、すそ野が広いエコシステムが構築されています。
中国企業の調査報告書を作成する多くの信用調査会社が、そうしたプレイヤーから情報を仕入れ、レポートに引用している状況です。
日本国内の週刊誌等では、日系企業が中国企業を訴えたとしても、中国当局の意向が反映されて勝てないという記事がときどき出てきます。
直近では、無印良品が敗訴した「名創優品」との事件が記憶に新しいのではないでしょうか。
しかし、伊達に共産主義ではないなと感じさせられるのは、多くの企業に対して、労使紛争が裁判記録として報告される点です。
すなわち、従業員が待遇や給料を争点として、企業を訴えている記録になります。
私たちが日々レポートを提供している中では、一社当たり平均2,3件の労使紛争が報告されているような印象です。
そうした状況下において、個別の労使紛争そのものはとくに気にする必要はないといえます。
繰り返しますが、労使紛争が報告されてくるのは中国企業にとっては一般的です。
他方、この労使紛争の件数が、直近になって急増している場合や、(企業規模や従業員数への)絶対数として明らかに多い場合は、経営安定性に大きな不安要素を抱えていると見抜けます。
まとめますと、労使紛争についてはその数と、発生した年月日に注目し、解釈することが求められます。
労使紛争に加えてみられるのは、売買契約紛争や、版権違反です。
これらの裁判記録をみると、罰則金や賠償金の支払い命令がでるケースは少なく、裁判所の仲介により訴訟が取り下げられるというケースがよくみられます(色々な事情が示唆されますが、あくまで中立的に事実のみ触れます)。
取引先が原告である場合、勝訴の記録であれば喜ばしいですが、上のように訴訟取下げ命令が発せられた場合、同社の権利侵害がなんらかの形で継続される、または当初想定していたよりも小さな和解金での妥協を余儀なくされたということも想定しうるので、注意が必要です。
逆に、被告であった場合はどうでしょうか。
この場合は、訴えられた側として、会社としての適切な素性が疑われますし、とくに賠償金の支払い命令を受けている場合には、その金額がどの程度財務状況に影響を与えうるか、注意して分析する事が必要といえます。
またここでも時系列の目線は保つべきで、5,6年前の訴訟履歴があり、仮に賠償金支払命令が下されていたとしても、そこから5,6年すでに営業が継続されているという事を考えると、特段注視すべき情報とは言えないように思われます。
対して1,2か月前に支払い命令が下されているという状況であれば、先に触れたような財務面への影響は、特に注意をもって確認する必要があると言えます。
末筆に宣伝じみて申し訳ないですが、「中国アドバンスレポート」では、裁判記録の詳細まで確認する事ができます。
なぜこんなことに触れるかというと、多くの信用調査会社のレポートには、中国における裁判の案件名しか示されないからです。
案件名だけみると、その内容の詳細が知りたくなるのが人の性ですが、残念ながら他社ではそこに対応できないケースが多いようです。以下、実際のレポートから引用です。(一部加工済み)
審理経過
当院は本訴訟の原告である上海東京北京有限公司を審理する。上海XXXXXX有限公司、原告XXXXXX有限公司に対する反訴被告のXXXXXX有限公司の売買契約紛争について、本訴訟の原告及び反訴原告は2014年3月31日に当院に対して免訴申請を提出した。
本院の考え
当院は、当事者が法律で定められた範囲内で自分の民事権利と訴訟権利を処分する権利を有するものとする。現訴訟の原告及び反訴原告が自発的に起訴の取り下げを申請しても当を得ないものはない。「中華人民共和国国民事訴訟法」の第十三条、第百五十四条第一款第(五)項の規定に基づき、次のように裁定する。
判決の結果
一、本訴訟の原告であるXXXXXX有限公司の起訴を取り下げることを許可する。
二、原告のXXXXXX有限公司の起訴取り消しを認める。
合議院
審判員 田中太郎
日付
2014年3月31日
書記員
書記員 来々軒
番外編を含めて、6回に亘りお届けした本シリーズも、次回総合的なまとめを書いて、終わりたいと思います。
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