私はかつてグローバルに展開する信用調査会社に勤めたことがあった。7年振りに会ったかつての中国現法の担当者が言った冒頭の言葉は、心底驚きに値するものである。なぜならこれまで一度も、彼女たちの口から自国の行政を批判するような言葉は聞いたことが無いからで、それだけ忠誠心や愛国心が高い人間であっても、批判の言葉が漏れてしまうような実情が中国の一般市民を覆っているのだろう。
特に、米国の大統領選挙を経て、来年からトランプ政権が始動することとなったニュースは、中国国内では米中貿易摩擦がさらに難しい局面を迎える論調で報道されているようで、彼女たちにとっては自国の先行きを案じる大きな要因になっている。
折しも10月末に、バイデン政権の大統領令を受けた米国財務省が、2025年1月2日より新たな対中規制を施行する事を発表した。米国人(U.S. person)が半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、人工知能の3分野で、懸念国の個人・事業体・政府と取引する場合に、財務省への届け出を義務付け、深刻な懸念がある場合は取引を禁止するとしたものである。
前トランプ政権が終わり、バイデンが新大統領に就任する際、国内外の複数のメディアは同大統領が親中派であるという論調を展開した。同氏の息子である、ハンター・バイデン氏が中国企業の関係を持っている事が主とした根拠で、バイデン家に中国資金が流れているという話である。
そうした中、米国政府高官が登壇する朝食会に参加する機会があり、トランプが展開した対中規制は、バイデン政権になり緩和する可能性があるのか質問した。それに対する回答は、既にトランプ政権が法律として制定したものであり、大統領が変わった事によってそれらの法律が反故にされる事はないというものであった。上のバイデンが下した大統領令をみても、この回答は正しかったのだと思う。つまりは、トランプが大統領に就任した後も、この大統領令は効果を持ち、継承されていくことになる。
The Economistが2024年5月に掲載した「Japanese businesses are trapped between America and China」によると、日系現地法人が創出した売上高は中国が約9兆円、対して米国は約14兆円である。それら現地法人の売上すべてが、対日本向けという事は考えにくく、ビジネス関係を考慮すると、相当額が対中向け、対米向け輸出によって獲得されていると察せられる。
つまり、今後間接貿易を含め、米国から先の対象3つの分野に関連する製品を中国向けに輸出する事は制限される可能性がある。また、中国がこの米国の規制に対して報復措置を取る事は現実的であり、中国で製造製品を米国に輸出する事にも弊害が生じてくる可能性が高い。
元来、日本政府は米国との経済安全保障政策を強化しており、この規制によって、日本側でも輸出管理令が発せられ、経産省に対する報告が義務付けられる可能性も考慮する必要がある。
安全保障貿易は、多くの場合技術や貨物がスペックに該当するか否かに着目される。もちろんそれも重要である事は言うまでもないが、相手先が大量破壊兵器の製造に関わっているのかを確認する義務は輸出側にある。同じ文脈で、今後取引対象である懸念国の事業体が重要な懸念先に該当しない事を証明する義務に加えて、その事業体が政府関連機関ではない事の確認も求められてくるはずである。自社でヒヤリングを行った結果をもって論拠とするのは、客観的な裏付けがなく、やや心もとない。信用調査会社の多くは、その事業体がそうした懸念先に該当するか否かをスクリーニングするサービスを提供している。むろんクレディセイフ企業情報もその一つであり、是非同サービスを有効活用の上、経済安全保障リスクへの対応を盤石にして頂きたい。
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