国際的な強制力がある仲裁判断
(1)仲裁のメリット
最大のメリットは、仲裁判断に国際的な強制力が与えられている点だ。
例えば、 日本企業と中国企業に紛争が生じて、日本企業が東京地裁で中国企業を相手取って訴訟を起こし、勝訴したとする。
仮に判決が確定しても、日本での確定判決を基に中国で強制執行することはできない。
強制執行したいのであれば、中国の中級人民法院で初めから訴えを起こし、勝訴、確定判決を取得することが必要になる。
中国企業が日本企業を訴える場合も同じである。日本と中国は相互条約に批准していないからだ。
これは、日本と中国だけの問題ではなく、他の国とでも同じ状況である。
しかし、相手国がNY条約に加盟していれば、仲裁判断を基に、新たに相手国で訴訟を起こすことなく、強制執行をかけることができる。
また、仲裁人を選択できる点も大きな利点だ。
訴訟では、当事者が裁判官を選択することはできない。 仲裁人は1名か3名にすることが多い。
偶数だと、意見が分かれたときに最終的な判断ができないこともあるからだ。1名だと両者にとってリスクがある。
多ければ多いほど、意見が偏るリスクはないが、費用がかさむ。
したがって、3名にするわけだ。3名にしておけば、そのうちの1名を日本人に選ぶこともできる。
隠れたメリットと言えるかもしれないが、仲裁を英語でできる点も見逃せない。
海外企業との訴訟で最大の費用は、翻訳・通訳費用だといわれている。
外国で裁判を起こすには、弁護士や裁判所に提出する取引の関連書類をすべて外国語に翻訳する必要がある。
これには、莫大な費用がかかる。取引が10年以上も経過していれば、分厚いファイルが何冊にもなる。
こうしたファイルの中には、訴訟の論点とは関係のない書類もあるが、日本語が読めない外国の弁謹士にはそれが判断できないため、すべてを翻訳する必要がある場合もある。
しかし、国際ビジネスは英語が基本のため、契約書をはじめ、貿易書類なども英語で書かれているものが多い。
英語で仲裁を行うことができれば、相当の翻訳費用の節約になる。
また、知的財産権に関する紛争など高度な企業秘密に関わる場合も、仲裁手続、仲裁判断が非公開であることも企業側にとって大きなメリットである。
最先端の分野など一般の裁判官の専門知識などに疑問がある場合も、専門性の高い弁護士、弁理士、大学教授を仲裁人として選択できる利点は大きい。
(2)仲裁のデメリット
では、仲裁にデメリットは全くないかというとそうでもない。
一般的には、仲裁判断の基準が不明確であるという声もある。
これは恐らく、仲裁が非公開であることと、特定分野の専門家ではあるが、法律の専門家ではない仲裁人が選ばれることとに関連があると思われる。
また、1審制で上訴できないために、絶対的に有利な立場にない場合など敗訴のリスクもある。
1審制であるために、仲裁の方が裁判よりも費用も時間もかからないが、審理が長期化した場合など、逆に裁判よりも高く付いてしまうこともある。
※出典:「海外取引の与信管理と債権回収」(牧野和彦著、税務経理協会刊)