あらゆる可能性を想定して契約書に盛り込む
契約書作成において有利に交渉を進めるには、こちらから契約書のひな形を提示することである。
当然、そのひな形は自社に都合の良い条項がはじめから盛り込まれている。
相手はそのひとつひとつを精査して、不利な条項について指摘をして、交渉するハンディを負うことになる。
反対に、相手からこうしたひな形を提示されると、自社でこうした作業を行うことになり、労力と時間が膨大にかかる。
また、 こちらが見逃す点も出てくる可能性がある。野球など後攻が有利とされているスポーツもあるが、契約締結においては先攻が圧倒的に有利である。
そのためにも、国際法に詳しい弁護士に自社の業種と取引形態に適合した英文契約書のひな形をいくつか作成しておいてもらい、使い分けることをお勧めしたい。
(1)誠実協議条項は通用しない
海外との取引において、契約の締結が非常に重要であることはすでに述べた。
国により異なるが、Agreement (契約)自体は通常、契約書がなくてもOffer (申込み)と Acceptance (受諾)によって成立する。
しかしそれでは、トラブルが発生したときに「言った、言わない」の論争になるので、書面にて明確に記載し、双方が捺印することにより効力を生じさせるわけである。
最大のポイントは事細かに取り決めをすることである。日本で見られる何かあったときはお互いに誠意をもって解決しようという考え方とは正反対である。
したがって、英文契約書にはいわゆる日本の契約書にある「誠実協議条項」なるものは存在しない。
何かあったときは、お互い相手に不信感を抱き、とても誠実に協議などできないので、そんな条項を入れること自体が無意味なわけだ。
こう考えると、良い悪いは別として、単一民族国家である日本の考え方が特殊なのかもしれない。
こんな細かいことまで決めるのか、というぐらいあらゆる可能性を想定して、 契約書を作成するぐらいで丁度良い。
それだけ周到に準備をして契約を締結しても、想定もしないトラブルが起きるものだ。
(2)債権回収において重要な条項
英文の契約書は固有条項と 一般条項に分かれるのが普通である。
固有条項は、各契約に固有の契約内容であるのに対して、一般条項は契約内容によらずに各種の契約にある程度共通する状況である。
したがって、一般条項を常日頃より整備しておけば、後は個別の契約に合わせて特有の条項をドラフトすればよい。
今回は、英文契約の各条項の詳細に触れずに、債権回収の観点からとくに重要と思われる条項のみ取り上げる。
債権回収において最も重要な条項といえば、 Payment Condition (支払条件)である。
ここには基本となる支払条件を取り決めるのはもちろんだが、期日どおりに支払われない場合に、Overdue Interest (遅延金利)を加算する旨の条項も盛り込むことがきわめて重要である。
利息制限法が規定されている国もあり上限利息の確認も必要だが、重要なのは利率ではなく、この条項を盛り込むことで、遅延に対する抑止効果があるということだ。
また、Termination (契約解除)の条項で、債務者が支払いを遅延し、債権者からの通知に対しても一定の期間内に支払いを実行しなかった場合は、債権者は契約を一方的に解除できる旨を入れておく。
こうすることで、契約残の商品の出荷を停止しても、債務者から損害賠償に問われる可能性がなくなる。
同じように債務不履行時には、債務者が期限の利益を喪失する旨も定めておくと良い。
契約書にしっかりこの二つの条項は盛り込む必要がある。