あまり知られていない貿易保険のデメリット
貿易保険と輸出取引信用保険とは、名称は違っても基本的には同じ保険商品である。
ただし、両者の大きな違いは、貿易保険は政府が提供し、輸出取引信用保険は民間が提供するという点だ。
実は、この輸出取引信用保険、案外と知られていない。
また、名前だけは聞いたことがあっても、実際に利用している企業は大企業を除くと意外に少ない。数少ない国際取引の債権保全策の一つなので、貿易や国際取引に関与している企業であれば、基礎知識として知っておくと良いだろう。
貿易保険も輸出取引信用保険も、日本企業の輸出人、仲介貿易、海外投資等の対外取引におけるリスクを回避する保険商品である。最近、日本で普及し始めた取引信用保険の国際版と思えば良い。
主に貿易保険や輸出取引信用保険では、国際取引に絡む下記の2種類のリスクをカバーすることができる。
非常危険 「戦争や外貨送金規制など取引相手国のマクロなリスク」
信用危険 「取引先の支払遅延や破綻による回収不能などの与信リスク」
貿易保険のメリットとデメリット
貿易一般保険では、輸出・仲介契約に伴う非常危険や信用保険を、ニーズに応じて船積み前から保証を付保することができる。
この保険は、取引先ごとに掛けることもできるし、取引先全体を対象として包括的に設定することもできる。
一般的な物品の売買や仲介にかかる取引だけでなく、技術提供契約や知的財産等のライセンス契約を対象とした保険もある。
また、金融機関などを対象に貸付金を保証する貿易代金貸付保険もある。
貿易保険の最大のメリットは、取引先を選んで保険を付保することができる点である。もちろん、すべての企業に保険を付保できるわけではない。
株式会社日本貿易保険(以下:NEXI)では、海外商社名簿と呼ばれる独自のバイヤー格付けを行っており、この格付けに基づいて引き受けの可否が決められる。
また、国が産業政策として保険を提供している面もあり、民間がリスクを取らないカントリーリスクの高い国の企業にも保険を掛けることができる点もメリットである。
一方、最大のデメリットは、取引先の破産などの事故が発生した場合に、保険金が輸出者に支払われた後も、回収義務が輸出者に課せられる点であったが、2014年10月1日以降の契約の場合ではNEXIへ保険金請求から回収まで委任することが可能となった(要権利行使委任状の提出)。
なお回収が難しい場合でもこちらから終了することができず、このような場合には終了認定と呼ばれる NEXIが本債権を回収不能と認めるまで続くことになる。
こうした報告だけでなく、全般的な書類や手続の煩雑さもユーザーが不満をもつ点である。
また、取引先の破産などの事故が発生してから保険金を受領する前に、NEXIに保険金請求書を提出してから1-2か月もかかることも使い勝手が悪い点である。
※ 株式会社日本貿易保険 (NEXI)
※ 出典:「海外取引の与信管理と債権回収」(牧野和彦著、税務経理協会刊)